マシュー・ボーン「白鳥の湖」@シアターオーブ

21日までシアターオーブで公演しているマシュー・ボーン版「白鳥の湖」の底なし沼(湖?)に片足をつっこんでおります。プレビューと千秋楽の2公演だけチケットを取っていたのですが、結局5回見ることになりました。本当はもっともっと見たいのですが、財政問題がありますのでね…が、我慢。。


★9/7(日)夜 プレビュー公演

ザ・スワン/ザ・ストレンジャージョナサン・オリヴィエ、王子:アンドリュー・モナハン、女王:アンジャリ・メーラ、ガールフレンド:キャリー・ジョンソン、執事:エド・ミトン
6日からの2日間4公演はプレビュー公演で、運よくプレビューでしか見ることができないアンドリュー・モナハンの王子を見ることができました。
ザ・スワン/ザ・ストレンジャージョナサン・オリヴィエ。ジョナサンは去年の「ドリアン・グレイ」でキャスティングされていたのに脚の手術で来日できなかったので、舞台で見られる喜びもひとしおでした。

何度もブルーレイで見てきた作品とはいえ、生の舞台を見るのは初めてだったこと、さらに席が最前列だったこともあり、白鳥たちの群舞の迫力に完全に気圧されてしまいました。作品を味わう、なんて余裕はまったくありませんでした(笑)
白鳥たちの「しゅっ」「はっ」「しゃーっ」という呼吸音、威嚇音としたたる汗にどきどきしっぱなしでした。すぐ目の前ですからね…わたしも攻撃されたみたい(笑)

パッケージされた映像だと視点はひとつですから、安心してそれだけ見ていられるのですが、実際の舞台はキャスト一人ひとりが細かく演技をしており、「脇役」なんていうものがなかったのです。それぞれの役に人格があり、舞台上で「生きている」。隅々まで物語がつまっているので、それを追いかけるためには目がいくつあっても足りない…!この作品が世界中で熱烈に支持されて、コアなファンがいる理由がわかりました。こりゃ…通うよ…中毒になる。

とりあえずこの日は、ジョナサンのスワンの高さのある跳躍に目を奪われました。飛んでいきそうだった…まさに鳥!そして大きな翼が見えそうなほどの雄弁な腕の動き!モナハン王子は若くて素直なプリンスで、繊細な思春期の少年をうまく演じていたと思います。ベテランのジョナサンスワンと組むと父と息子みたいでした。

2幕の劇中バレエは大好きなパートですが、ガールフレンドが「初めて見るバレエ」に目を輝かせている表情がなんともピュアで泣けました。ガールフレンドは無作法でセレブリティ好きな俗っぽいキャラクターですが、キャリー・ジョンソンがとてもチャーミングに演じているので、応援したくなりました。
とにかく振付、演技、衣装、舞台転換の鮮やかさに巧みな照明、と目に映るすべてがドラマチックで素晴らしかったです。


1996年アダム・クーパーがザ・スワンを演じたDVDから比べると、かなり演出が変わっていました。まず幼年期の王子がいない。報道官が権謀術数めぐらし王子を罠にかけていたのに(ザ・ストレンジャーと共謀してたロットバルト的存在と認識していたのに)、今は執事と役名が変わり、印象がとても薄くなっていた。その分、物語は王子の内面の葛藤に焦点あててるのかなと思う。

カーテンコールのみ写真撮影可能でした。


★9/13(土)夜公演 
ザ・スワン/ザ・ストレンジャー:マルセロ・ゴメス、王子:クリストファー・マーニー、女王:アンジャリ・メーラ、ガールフレンド:キャリー・ジョンソン、執事:エド・ミトン

今回の東京公演では、世界的に活躍しているクラシックバレエダンサー、マルセロ・ゴメスがゲストダンサーとして参加しています。わたしがゴメスを観るのは昨年のヴィシニョーワガラ公演以来です。2月のABT来日公演「マノン」はとても評判が良かったのに見る機会がなく残念でした。なので、今回のゲスト出演はとても楽しみにしていました。

この日の収穫は、スワンクバーのカウンターで王子がドラッグをやってることに初めて気がついたこと!この場面、お立ち台でお姉さま方がスポットライトを浴びながら羽根扇子を広げて踊ってるところなので、ついそちらに目線が行くし、DVDでもそこしか映ってなかったので、初見ではまったく気がつきませんでした。
王子がドラックをやっていたとなると、このあとの展開の解釈がちょっと変わってきます。ドラッグゆえの幻覚スワンと読み取れるし、ザ・スワンは王子の孤独の化身、王子が作り上げた唯一の味方ということも言える。群舞白鳥たちも王子の現実世界の投影だから、元から仲間ではないゆえに攻撃的なのかな、とか。4幕で王子がいよいよ追い詰められると、スワンも痛手を負って登場するのも納得がいきます。心の拠り所であるスワンが死ねば王子も生きていけないし、逆に王子が死ねときそれはスワンの死でもある。

この日のクリス王子はバレエ鑑賞にガールフレンドを同席させたとき、作法を知らず品のない振る舞いをするガールフレンドに非常にイライラしてました。プレビューのモナハン王子は無作法に困りながらも仕方ないなあと愛ある感じでガールフレンドを見てので、その演技には驚きました。そう見ると、クリス王子はとくにガールフレンドのことも好きではなく、母親が嫌うタイプをわざわざ選んで、嫌がらせしつつも母の関心を得ようとしてるのかな…。

ゴメスのスワンはとても繊細かつ優雅でした。カリスマがあって荒々しい感じでくるのかと勝手に想像していたので驚きました。クリス王子も本当に美しい踊りをするので、デュエットが素晴らしかったです。どちらかというとクリス王子の演技と踊りに自然と目が釘付けになり、王子中心に鑑賞したため、この作品が「王子の物語」であるということを理解できました。華々しいスワンとストレンジャーに目がいきがちですけど、王子の孤独や葛藤がメインだとわからせる、こちらの心もひりひりと痛むようなクリスの演技でした。最後、スワンの幻影みてるような笑顔で果てたのも涙を誘いました。

★9/15(月)昼公演 
ザ・スワン/ザ・ストレンジャー:マルセロ・ゴメス、王子:クリストファー・マーニー、女王:アンジャリ・メーラ、ガールフレンド:キャリー・ジョンソン、執事:ポール・スメサースト

この日のクリス王子はガールフレンドにイライラしてなかった!バレエ鑑賞ではかなり困っていたけど、物語の説明してあげたりして、女王と非難からガールフレンドをかばってあげてた。土曜の王子は何があってあんなにイライラしてたのかしら(笑)
ガールフレンドにキスされたときも、土曜のイライラクリス王子は女王にバレないようにけっこう素早く拭いてたけど、月曜の優しめクリス王子はキスされて「ウフフっ」「でへへ」って照れながら拭いてて、とても可愛かったです。毎日違う演技するんだー!と感激しました。

ゴメスのザ・スワンはひたすら優雅!エレガント!白鳥の女王…女王だわ…って感じるくらい。クラシックバレエのダンサーのせいか、腕の動きがニュー・アドベンチャーズのダンサーとはまた違い、古典「白鳥の湖」のオデット/オディールの腕の動きに通じるものがありました。

そしてゴメスのザ・ストレンジャーは鉄板!!ABTのロットバルト役でも舞踏会で女性たちをメロメロにしているゴメスですが、こちらの「白鳥」でも女性たちが「次に踊るのは私よ!」と争うようにパートナーになりたがるシーンは説得力ありすぎる!いや〜人々を薙ぎ倒していく魅力です。最後に男子たちまでまとめあげちゃって、すっかり虜にしていくの。

…そしてストレンジャーが王子を羽交い締めするところ、ゴメスはクリス王子のジャケットの中に手を這わせていたことも報告しておきますね…。ひゃぁって変な声が出そうになりました。。。それでなくてもこの二人、お互いを意識しつつも女性と踊ってるシーンとか、火花散らしながらも官能的なんですよ。顔も近いし、うっかりキスしてしまうんじゃないかと思うくらい近い。

ストレンジャーが煙草の灰でおでこから鼻筋を黒くしたあとにスワンの踊りをするところ、古典のオディールも「あなたはこういうタイプの女が好きなんでしょ?」と内心王子を軽蔑しながらオデットを真似て踊る場面なのですが、ここ大好き!この日ゴメスは片方だけ口角あげて不敵に笑ってたから、余計に凄みがありました。

ゴメスは4幕のスワンズに攻撃されてるときでさえ微かな笑みを口元にたたえていて、まるで王子の痛みを自分の身に代えてしまいたいというような、自己犠牲の愛を感じました。それによって王子を救えるなら自分の命を捧げることはむしろ本望、というような…(涙)それは2幕登場からひたすら優雅で繊細なザ・スワンの最期に相応しい姿でした。

そんなスワンの姿を目の前で見てるのに、どうすることもできないクリス王子は絶望の只中で果てていきました。前回はザ・スワンの幻影が見えているかのように微笑んで死んでいったけど、今日のゴメスのスワンの最期見たら、たしかに微笑みすら出てこないよな…。二人とも毎日「役を生きてる」んだなあ…(涙)

ゴメスのザ・スワンは白鳥の群れのなかでも孤独で、王とかリーダーという感じがしない異質の存在に見えました。それはゴメスがゲストダンサーというのもあるのかもしれないけど、それがまた王子の孤独と呼応する効果があって、切なさに拍車がかかってた。。

壮絶な最期を演じ終えたカーテンコールで王子とザ・スワンだけ出てくるところ、二人で手をつないだままなかなか前に歩き出さなかった。放心状態のように見えたゴメスを、クリス王子が「行くよ?」と顔を覗きこむように見て、促して、ゴメスの手を引いたのです。2歩くらいリードしてね…。な、なんなの…この二人のケミストリー(号泣)

カーテンコールで真っ先に立って大歓声あげてたのは客席のサイモン王子のように見えた。指笛ならしてたのはスワンズ。土曜日の公演も、私の近くの座席にジョナサンが座ってゴメスたちの演技を鑑賞していました。他のキャストのも楽しんで、わいわい盛り上がってて皆さん可愛いな。