モナコ公国モンテカルロ・バレエ団「LAC〜白鳥の湖」2/28夜@東京文化会館

ジャン=クリストフ・マイヨー率いるモナコ公国モンテカルロ・バレエ団「LAC〜白鳥の湖」、2/28(土)の夜公演を見てきました。

キャスト表より

振付:ジャン=クリストフ・マイヨー、ドラマトゥルギー:ジャン・ルオー、衣装:フィリップ・ギヨテル、照明:ジャン=クリストフ・マイヨー、サミュエル・テリー

王:アルヴァロ・プリート、王妃:ミー・デン、夜の女王:モード・サボラン
王子:ステファン・ボルゴン、白鳥:アニヤ・ベーレント、黒鳥:エイプリル・バール
王子の友人(相談役):アシエル・エデソ、闇の大天使:クリスティアン・ツヴァルジャンスキー、エディス・エルグク

[欺くものたち]
虚栄心の強い女:リイサ・ハマライネン、偽りの無関心を装う女:ノエラニ・パンタスティコ、放埓な女たち:アンハラ・バルステロス、アンヌ=ラウラ・セイラン、貪欲な女:ガエル・リウ

狩人たち:ルーカス・スリーフット、レアルト・デュラク、コーエン・ハヴェニス、ジュリアン・ゲラン、アレクシス・オリヴェイラ、ジョルジュ・オリヴェイラ、ダニエレ・デルヴェッキオエドガル・カスティロ、ステファノ・デ・アンジェリス

その友人たち:シヴァン・ブリツォワ、クイン・ペンドルトン、フランチェスカ・ドルチ、アレッサンドラ・トノローニ、田島香緒理

キマイラたち(白鳥):シヴァン・ブリツォワ、サラ・クラーク、ティファニーパチェコ、エレーナ・マルザーノ、フランセス・マーフィ、アレッサンドラ・トノローニ、クイン・ペンドルトン、ガエル・リウ、リイサ・ハマライネン、アンヌ=ラウラ・セイラン、田島香緒理、ベアトリス・ウァルテ、アンナ・ブラックウェル

宮廷:アンヌ=ラウラ・セイラン、ガエル・リウ、アンナ・ブラックウェル、フランチェスカ・ドルチ、フランセス・マーフィ、アンハラ・バルステロス、シヴァン・ブリツォワ、リイサ・ハマライネン、ベアトリス・ウァルテ

ジョルジュ・オリヴェイラ、アレクシス・オリヴェイラ、ルーカス・スリーフット、ステファノ・デ・アンジェリス、ジュリアン・ゲラン、エドガル・カスティロ、ダニエレ・デルヴェッキオ、コーエン・ハヴェニス、レアルト・デュラク

チャイコフスキー:LAC ~その後の白鳥の湖《BD》 [Blu-ray]

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まずプロローグとして舞台上スクリーンに映像が流れる。王子が幼い頃、誕生日に招かれた女の子(のちの白鳥)と出会い、初恋をする。そこに古典ではロットバルトに当たる役「夜の女王」とその娘・黒鳥が割り込み、自分の娘に見向きもしない王子に腹を立て、初恋の女の子をさらっていく…。

1幕、王子の嫁選び中に夜の女王と黒鳥が乱入して、王と王子をそれぞれ誘惑しようとする。王妃と王子の腹心の友(相談役)がふたりを正気にして、結局、王子は嫁候補すべてを拒絶する。


2幕、森の中で白鳥との再会。夜だけ人間に戻れる白鳥は王子に手で触れることができる喜びを全身で表現。

3幕、結婚相手をお披露目する仮面舞踏会、白鳥が黒鳥と入れ替わっていることに気が付かない王子。王子の裏切りを見て、絶望する白鳥はその場を去る。王子を陥れた黒鳥を殺める王妃。

4幕、白鳥を追いかける王子。夜の女王から王子を守るために王、王妃たちが登場。狩人たちが黒鳥の亡骸を担いでいるのを見て絶叫し嘆く夜の女王。その報復として白鳥を殺め、王子もまた命を落とす。


白鳥の湖」には珍しく、マイヨー版には父王が存在している。ややマッチョで「男とはこうあるべし」と説くけど、夜の女王の誘惑にクラっとしそうになったり、王子の友人たちとも楽しく踊って、わりと親しみやすい、人間臭い王様(笑)王妃は浮気性の夫の行動がちょっと気になってる、息子にも自立よりまだ手元に置いておきたい気持ちが強い感じ。

マイヨーのインタビューによると、夜の女王は現実や自然を象徴し、人間の力が及ばない存在とのこと。白鳥の湖はどのバージョンでも王子の物語という印象だけれど、マイヨーのプレトークによれば「夜の女王と王妃、ふたりの母親の物語でもある」とのことで、たしかに二人の確執に、それぞれの子供たちが巻き込まれた感じもする。ただ、黒鳥が娘として、では白鳥はどこから来たのか?パンフの解説には王子の誕生日を祝うピクニックに招待された女の子とあったけど、彼女の出自がわからない。

恋の喜びあふれるPDDも、白鳥は人間に戻れそうな予感と、好きな人に触れられる喜びでいっぱいに見えて、古典バレエにあるようなお互いへの献身的な愛というようなものは薄い。白鳥に限らず、登場人物はみな利己的で自分の欲望へ素直というか…とても人間らしい人物造形だった。

王妃が黒鳥を殺めてしまうのも、それを見て慟哭する夜の女王も、単純な「善」と「悪」ではなく、ひとりのなかに全てがあると見せる描写だから、人物が立体的に見えて魅力的だった。

わたしが一番気になった人物は「王子の相談役」。英語表記だとThe Confident(腹心、親友)は王子が大好き!というのが踊りから、視線からあふれておりました(笑)嫁選びもぶち壊すし、3幕スペインの踊りでは王子に視線をロックオンしてアピールしまくるし、挙句の果てに横たわる王子に覆いかぶさるし!王様に止められて引きはがされてたけど…!でも王子にあんまりかまってもらえてない…悲しい。

そう、「相談役」という単語だと年上の指導的立場を感じるけれど、実際に演目を見れば、幼馴染というか乳兄弟というのがしっくりくる親密さだった。衣装も、ほかの王子の友人たちは襟付きベストでより正装に近いが、The Confidentはサスペンダーのようなシルエットのベストで簡素に見え、友人たちよりも身分が低いのかなと思わせる。


夜の女王の二人のお付きの者は「闇の大天使」という、ちょっと中二的なネーミングで(笑)、英語表記だとただのArchangelたちがまた素敵で、女王と三人で一体化する踊りがラスボス感ありすぎてかっこいいの!しかも、4幕で女王がピンチのとき、二人で「どうする?俺たちこれからどうするーー?」みたいに隅っこで抱き合ってて、これもまた悪役として憎めない感じでした。かわいい…。


振付はテクニックと身体能力が高くなければ到底踊りこなせない難易度の高いリフトが多く、それもものすごいスピードで展開していくので、ダンサーたちのエネルギーたるや!しかしそれも古典バレエのような「技のご披露」というようなものではなく、物語る動きであるので、物語にどっぷり入り込める。マシュー版スワンと同じくらい大胆な古典翻案で、たいへん楽しみました。DVDもあるので、これから何度か見直そうと思います。