RED @新国立劇場小劇場 8/26(水)夜

映画007シリーズ『スカイフォール』や『スペクター』(12月公開)の脚本、ドラマ『Penny Dreadful』の制作・脚本を手がけたジョン・ローガン作『RED』の翻訳劇を見てきました。

『RED』は抽象表現主義の代表的な画家であるマーク・ロスコをモデルに、そこへ架空の人物であるアシスタントの青年ケンを配した二人芝居です。初演は2009年ロンドンのドンマーウエアハウスで、ロスコ役はアルフレッド・モリーナ、ケン役はエディ・レッドメイン。劇中で制作しているシーグラム壁画の一部は千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館で展示されています。

作:ジョン・ローガン、翻訳・演出:小川絵梨子
キャスト:田中哲司(ロスコ)、小栗旬(ケン)
美術:松井るみ、照明:服部基、音響:加藤温、衣装:安野ともこ、舞台監督:瀬粼将孝、プロデューサー:北村明子、企画・製作:シス・カンパニー

ローリー・キニアさんが出演してるからと見始めたドラマ『Penny Dreadful』(邦題は「ナイトメア 血塗られた秘密」)は、ゴシックホラーで血まみれシーンなども多いのですけれど、セリフにはワーズワースシェリー、ジョン・クレアなどロマン派の詩人の作品が多く引用され、それがまたキニアさんはじめとする声の良い役者さんたちに読まれるものですから、まあ…なんて素敵な響き…と興味を覚え、理解もできないのに詩集を買って読んでみたりした去年の冬でした。
その教養の塊のような脚本を手がけたジョン・ローガンの二人芝居となれば、見に行かないわけにはいかん…とチケットを取りました。テレビでも人気の俳優さんが小さい劇場で演じるのですから、覚悟して、いつもよりちょっと頑張って(といっても先行予約に申し込んだだけ)チケット取りました(笑)

    • 舞台

窓に目張りがされた薄暗いアトリエが舞台。中央には制作途中の大きなカンヴァスが掛けられ、絵の具や刷毛などの道具類がテーブルを埋め尽くし、上手に蓄音機、下手に一人掛けの椅子。カンヴァスの赤(RED)に深みを持たせる照明がとても美しいです。劇中、蛍光灯にさらされるシーンがあるのだけれど、照明の違いでこんなにも平板に、のっぺりとした色に見えるのか!とハっとしました。音楽はクラシックやジャズ、演者が蓄音機を操作しますが、実際は上のスピーカーから音が聞こえます。

    • 内容について

画家と、画家を目指す青年は師匠と弟子よろしく、ロスコが投げかける芸術論に必死に食らいつき、ケンは教養を身につけていく。しかし舞台が暗転するたびに二人の関係性は変化していき、子犬のように無邪気だったケンは挑発的な言葉をロスコに投げかけるようになる。ロスコが語る芸術論や絵との向き合い方を聞いているだけでも、その情熱に打たれて涙が出てしまうのに、追う者と追われる者の立場がいつしか逆転し、追われる者はただ存在消失のときを待つだけになる切なさ!とても好きです。

    • 演出について

開幕まもないということもあってか、田中さんはセリフを噛むことが目立ちました。初めから怒涛の勢いでものすごい量のセリフを語らせるので、公演を重ねればなじんでくるのかな。
中華のテイクアウトを食べるシーン、ロスコは麺、ケンはご飯ものを食べているのかな?ガツガツと食べながら、同時にセリフを言うので、言葉が聞こえなかったり、ゲホっとむせたり、口のなかのものが出てきたりする。パンフレットを見たら、生命力が垣間見える演出とのことだけれど、正直、わたしは好みではなかった。まずセリフが聞き取れないことが悲しいのと(この戯曲のいちばんの魅力は言葉の激しいやりとりなのに、それが聞こえないなんて)、むせると客席からクスクス笑い声が起きる。こういう何ひとつ面白くもない生理現象を笑う感覚がどうにも理解できないので、観客が笑うことを意図してるならば、それはどんな効果があるということなのだろうか。


とはいえ、大いに楽しみました。ちょうど1か月後にもう一度見に行く予定なので、二人がどう変化しているのか、楽しみです。



追記:
9/30(水)昼
二度目のREDはとてもとても良かったです…。1ヶ月後になると台詞は血肉になっているようで、前回気になったセリフの聞き取りにくさ、噛むところなどがなかったです。そのおかげで、ロスコの言葉が心に直接触れてくるというか、決して感情移入してるわけではない(そういう親近感は持てない人物像)のに、言葉が刺さってきて、冒頭からずっと泣きっぱなしでした…ひとりで見に行ってよかった…あぶない人だった…。
前回つらかったご飯モグモグシーンも、客席からの笑いはあったけど、色の流動性、画の生命感など、話している内容と呼応するダイナミックさ、は汲み取れて不快な感情を持ちませんでした。
残念ながら日本語訳の戯曲はないので、英語のままのを買いました。それを読んで脳内上演できます。