調律師

昨年12月の上原ひろみのライブは圧巻だった*1。カーテンコールでひろみと肩を組みながらファンの声援にも応えたピアノの調律師・小沼則仁さんが3月10日にお亡くなりになったそうだ。ツイッターでそのことを知ったとき、ひろみは大丈夫かな…と思いを馳せた。

そして改めて小沼さんの過去のインタビュー記事を読み返した。雑誌「GOETHEゲーテ」2010年8月号の「アルチザンの視線」というコーナーで取り上げられている。そこに記されている小沼さんの言葉には、音に、ピアニストに真摯に向き合ってきたプロの硬質な響きがある。

「調律師は技術的に正確な音あわせができても、自分の音に仕上げてはいけないと思います。ピアノの音で自己主張してはいけない。音楽を完成させるのはピアニストですから。」

(中略)小沼はピアニストの指のタッチ、鍵盤を叩く角度、長いボディのどのあたりを鳴らしているかなどを観察し、弾き始めてからのピアノの状態をイメージし、逆算して音をつくっていくのである。

これはほんの一部抜粋したもの。ほかにも上原ひろみのライブで、体力の限界を迎えているにもかかわらず、観客のアンコールに何度も応えるひろみを諌めた話など、心がじんと締めつけられる。愛のある指導をしてくれる、信頼できる人を失う悲しみははかり知れない。