内澤旬子×高野秀行 「与太話だけじゃダメですか?」@みちくさ市トーク

鬼子母神で行われてる「みちくさ市」の内澤旬子さん連続トークイベントに行ってきました。今回のゲストは高野秀行さんです。来月の高野さんのイベント+飲み会がちょうど4Stars初日公演と重なり、泣くに泣けない気分であったので(だって前回すごく楽しかったから…高野さんとお酒飲んでお話できるんだよ?高野ファンみんなちょっとオカシナ人で話が面白すぎるよ??なんで行けないの…わたし…)、このイベント告知があったときは心底うれしかったー!

しかもテーマが「マイナー言語」。高野さんは世界各地を取材するたび必ず現地語を学んでいくので、コンゴのリンガラ語、アマゾン地域のポルトガル語スペイン語タイ語、中国語、ミャンマーのワ州の言葉、アラビア語インドネシア語、ソマリ語などなど、英語とフランス語はもちろんのこと、これまで勉強したのは20言語ほど。
しかし、言語オタクゆえに今まで言語の話を封印してきたという。「言語好きな人が相手でも共感を得られるわけじゃないしね、電車好きだって“乗り鉄”と“撮り鉄”じゃ全然違うっていうじゃない?」と(笑)
「でも今日はようやく解禁できる!って思ったら、もうワクワクしちゃってテンション上がりすぎて、今日もここまで来るの大変だった。何話そうかな…と頭の中いーっぱいになって電車乗れないの。自分がどこ歩いてるのか全然わからなくなった」と満面の笑み。

対する内澤さんも言語オタクでハングル、ペルシア語、キリル文字など「文字の形」に惹かれて勉強したそうだから、さすがイラストレーター。そしてお二人の言語オタクぶりは“乗り鉄”と“撮り鉄”くらい違いがあることもわかった(笑)

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

まずは売れ行き好調な高野さん新刊ソマリ本から、ソマリ語の話。
高野さん:言語を学ぶときは必ずネイティブの人からと決めているが、日本にソマリ人は10人を切るほどしかいない。今回は先生を見つけるのは難しいかなあ…と思いつつGoogleで「在日ソマリ人」と日本語で検索したら、早稲田大学に留学したソマリ兄妹のニュースがヒットした。探検部の後輩に電話してみたら「同じ学部なので探してみます!」というのでお願いしたら、1時間後に「見つかりました!」とあっけなく伝手が…。

もう、ほんとうに、高野さんの巡り合わせの面白さがギュっと凝縮したエピソード(笑)!!その後は取材に必要な文章をソマリ語に訳してもらい、発音を録音して、何度も何度も聞いて覚える。「それはほんとうですか?」「海賊」「けが人」など録音されてるのを聞かせてもらった。

ソマリ語はとても複雑な文法構造。フランス語は比較的複雑といわれてるけど、そんなもんじゃないと。女性名詞が複数になると男性名詞になる(その逆もある)とか、前置詞が名詞につかず動詞につくとか、格変化はないがそのかわり「あなたがわたしのために」というような単語がある。文法が複雑であるということは、文章に解釈の余地がないので覚えてしまえば読むのはラクとのこと。

ソマリランドと南部のモガディショでは方言で単語が違うこともあり、場所にあわせて言葉も変えないと「ランド(または南部)で覚えてきたな」とイヤがられると。

正直、この歳で新しい言語を習得するのはたいへんだけれど、やはり現地の言葉を知っているとたくさんの人と話せるのがいい。英語で通訳をつけたほうが情報量はあがるのかもしれないが、拙いながらも言葉を話すと警戒されないし、ふつうではできないような取材もできる(イスラム圏であるソマリでは女性と同席することや台所に入ることなどもってのほか、らしいが、料理を教えてもらったり一緒にテレビみてくつろいだりした。ムスリムにその話をするととても驚かれるらしい)。

ソマリ語は以前はアラビア文字を借りていたが、いま学校ではローマ字表記。そうしたら20%程度だった識字率が一気に70%超えたらしい。イスラム圏はクルアーン必読だからアラビア文字捨てるっていうのはかなりすごいことよね。


言語と思考について。言語は思考に影響しないというのが言語学での定説ではあるけれど、「その言語がもっとも通じる振る舞い」というのは確かにあって、ソマリ語や中国語を話すときは語気や押しは強くなるし、タイ語はにこやかに穏やかに話すし、フランス語は気取って話す。と実演してくれました。「おフランスな高野さん」はかなり貴重!!(笑)国によって振る舞いが変わるので、その豹変振りを同行者に笑われるらしい。


内澤さんの多言語との出会いは、大好きな作家・立原正秋の出自からハングルと在日朝鮮人の差別の歴史など勉強するようになったとのこと。ハングルは表音文字でとても合理的に作られているので、すぐ読めるようになり、勉強が面白かったのですって。「20代に覚えたことって忘れないです。今でも韓国ドラマを見ると勘を取り戻して、字幕なしでわかる」と。おおぉ。

そのあと勉強したペルシア語は、イランに行ったとき英語表記がほとんどなくトイレすら探すのに苦労したのが身にしみたのがきっかけ。製本や印刷にも興味があったので、エスファハーンアルメニア人居住区ではイラン国内よりも100年も前から活版印刷が導入されていた(アルメニア人はキリスト教なので、聖書の印刷技術がヨーロッパから伝わったらしい)ことを知り、イラン国内の印刷技術の伝播の歴史を書いた本をペルシア語原書で読めるまでになったそうな。


なんというか…お二人とも集中力がすごいよなあ…。


そのあと話題になったのはピダハンやアメリカ先住民の、左右ではなく俯瞰の視点でモノを見る、それが言語にも表れていることなど。アメリカ先住民は東西南北で表現するらしいのだけど、高野さんによると甲州弁もそうらしいです。意外な共通点(笑)

キャン・ユー・スピーク甲州弁?―がんばれ!みんなの甲州弁

キャン・ユー・スピーク甲州弁?―がんばれ!みんなの甲州弁

「亡びゆく言語を話す最後の人々」も話題に。内澤さん「少数民族のところへ行って聞き取り調査してるわけだけど、現地語話者が少なくなってる原因のひとつに英語やグローバリズムであるわけで、英語ネイティブの著者がなんか鼻につくけど、すごく面白い」高野さん「わたしが本当にやりたいことを仕事にしてる人(=著者)がいることにショックを受けて、嫉妬のあまり読み進めることができない」…(笑)さっそく図書館へ予約した。

亡びゆく言語を話す最後の人々

亡びゆく言語を話す最後の人々


お二人とも生き生きと多言語について話しているのがとても面白かった。英語に抗って多言語で生きてる(もちろん英語はお二人ともできるからこそなんだけど)。