京都バレエ団特別公演「ロミオとジュリエット」@ゆうぽうとホール

再構成・演出・振付:ファブリス・ブルジョワパリオペラ座バレエ団メートルド・バレエ)
ロミオ:カール・パケット、ジュリエット:エロイーズ・ブルドン、キャピュレット卿:シリル・アタナソフ、キャピュレット夫人:モニク・ルディエール、パリス:クリストフ・デュケンヌ、ティボルト:アルチュール・アラール(昨年末だったか、ピエール=アルチュール・ラヴォーから改名)、マキューシオ:アクセル・イーボ、ベンヴォーリオ:ヤニック・ヴィトンクール、ロラン修道僧:安達哲治、乳母:本田恵子、ロザライン:藤川雅子、マキューシオ友人:奥村康祐、西岡憲吾、鷲尾佳凛
指揮:江原功、演奏:ロイヤルチェンバーオーケストラ


パリオペラ座の現役ダンサーと元ダンサー8人が客演、そのなかにはパリオペの一時代を築きあげたモニク・ルディエールもいる!というので、世界バレエフェス開催年で何かと出費がかさむ8月ですが真っ先にチケット取りました。しかもわたしの好きなカールさんがロミオ役!フランスだったら年齢的にももうロミオは見られないかもしれない…という貴重な公演です。ジュリエットはスジェながら昨シーズンは白鳥デビューも果たし、活躍目覚ましいエロイーズ・ブルドン。手脚が長くてしなやか、そしてとても美しい華やかな顔立ちなので、ジュリエットにぴったりなのは想像に難くなく、この日を楽しみにしていました。


まず劇場に入るとバラやユリなど公演のお祝いで贈られてきた花の香りでホワイエが満たされており、それだけでもうっとりでしたが、なんとアコーディオンによるシャンソンの生演奏がされていました。これは非日常へ誘う演出で、これから見る舞台への期待が高まります。演奏していたのはミッシェル・グラスコさん、この夏シャンソン大使としてアリアンス・フランコフォンと日仏シャンソン協会主催のツアーをしてるのだそうです。


全三幕で演じられることが多い「ロミオとジュリエット」ですが、今回のブルジョワ版はプロローグ付の全二幕でした。


プロローグはキャピュレット卿の書斎で、ジュリエットのドレスが掛けられたトルソーを悲痛な面持ちで眺めつつ、回想録を記しています。この書斎はエピローグでも登場し、やはりキャピュレット卿が嘆き悲しんでいます。これにより、このブルジョワ版は若い二人の電光石火の愛の顛末であるとともに、娘に結婚を無理強いした父による悔恨の物語でもあるのだと理解できます。これを家長父制への懐疑と見れば、ジェンダー的にとても現代的な解釈だと感じました。

それ以外の全体の印象としては、パリオペのヌレエフ版をベースにして、あの複雑なパや長めの男性ソロなどの演出を整備し、わかりやすくなっていました。バレエ団への難易度の考慮はされてるのだと思います。


冒頭の広場、ロミオはロザラインに夢中で、猛烈にアタックするものの箸にも棒にも引っ掛からない。そんなつれない態度を気にする様子もみせず友人たちには臆面もなく「ロザラインが大好きなんだよ〜♡」とマイムすると、その投げキッスを受け取ったマキューシオがくらくら〜と眩暈をしながら倒れてみせる(笑)マキューシオは終始おちゃらけて、ソロなど見せ場が多くありました。演じたイーボがとても愛嬌がある演技と、確かな技術で舞台を盛り上げてました。


ロミオは舞踏会でもロザラインばかり見て、ジュリエットには背を向け、全くその存在に気づいてない。でもパリスと踊ってるジュリエットはロミオに目をとめ、「あの人は誰だろう?」と気にしてる。キャピュレット卿は武闘派なのか?剣を振り回しながらの舞(ヌレエフ版にも剣舞あり)、マキューシオが舞踏会を盛り上げ、ようやくロミオはジュリエットと目と目があう。そして、その瞬間に恋に落ちるのだった。あんなにロザラインに夢中だったのに!!(笑)

惚れっぽいロミオが友人たちをまえに「なんて美しい人なんだ!」というマイムをするたび、マキューシオは「ハイハイ」「いつものか」という態度(笑)いやほんとに、呆れますよ…ロミオめ…。

ヌレエフ版でもそうですが、ジュリエットがロミオをモンタギュー家の人だと判断するのに、ロミオが変装で着ていた赤い上着をベリっと脱がせる(胸のところまではだけさせる)の、14歳の少女のやることにしては大胆すぎませんか…なぜ仮面を剥ぐとかじゃないの…。

マクミラン版だとロミオとジュリエットが出会うシーンは、「世界は二人だけ」という感じに周囲の人がまったく見えなくなる演出がされているけれど、今回のは惹かれ合うロミオとジュリエットに嫉妬の火をメラメラ燃やすティボルトが、その心象風景をソロで表現するあいだ、主役の二人が周囲と同様に動きを止めモブと化すという、とても珍しい演出がなされていました。ティボルトはジュリエットが好きだったのかな〜。


バルコニーシーンは、ブルドンの若さと美しさが煌めいて、ま、まぶしい!!という感じでした。カールさんはさすがの安定感で、落ち着き払ったお兄さんという感じ。素の誠実な感じが見えるというか(笑)


二幕、マキューシオの死に方はお見事でした。おどけてみせたり、平気なふりをしてみたり、でも最期には剣をロミオに託して「仇を討て」と言うかのような絶命しました。マキューシオの死を認識したときのロミオの目が怒りでキラリとし、闘争本能に火がつくというか、一瞬で人格が変わったかのようにティボルトに襲いかかっていくのが、とても格好良かったです。わたしはカールさんを、チャラチャラしたプレイボーイや温和な役どころでしか見たことがないので、おお…こういう表情をするのか…と新鮮でした。

ティボルトの死ではヌレエフ版のようにキャピュレット夫人とジュリエットは嘆かず。夫人は大公に「逮捕してください」というような訴えのみ。たまにある演出のように、二人に男女の関係を感じることはありませんでした。


ロミジュリのベッドシーン、まあ…刹那とわかっている幸福というものはなんて美しいんでしょうね!ブルドンは一幕初めから無邪気な少女という役作りではなく、精神的に自立したジュリエットという印象があったので、ここで成熟した雰囲気へすんなり移行していきました。そのあとの結婚を無理強いする両親への激しい抵抗も切々としていて、胸打つものがありました。自由を奪われたらわたしの魂が死んでしまう…!という激情と脆さを感じ、この物語のいちばん根底にあるテーマはこれ、魂の自由だろうと思いました。


墓場シーンでは殺されるためだけに登場するパリスですが…デュケンヌをまた東京で見られてうれしかったです。相変わらずエレガントな佇まい。すこしだけソロもありました。(出番はあるわりにソロなど見せ場がなかったベンヴォーリオのビトンクールにも、もう少し踊ってほしかったなあ…と思います)


主役ふたりの絶命シーンはわりとあっさりという感じでしたが、エピローグで父の後悔が表現されるので、二人が命を絶たねばならなかった因果に思いを馳せる余韻が残り、よい幕切れだったと思います。


とにかくキャストが豪華で、演奏もよかったですし、たいへん楽しかったです。何もない年だったら来週のびわ湖ホールにも行っちゃうところでした、あぶなかった(笑)