NT Live「ハムレット」

寒くなりました。恋の季節ですね。

というのも、つい先日ツイッターのお友達に「まさわさんは寒い季節に恋に落ちやすい」と指摘されました。た、たしかにラミンは11月、ジムさんは10月だったかも…。そして今年も恋に落ちました。

先週のこと、イギリス演劇のライブビューイング企画NT Liveで「ハムレット」を見ました。前回の「リア王」がとても面白かったし、今年はシェイクスピア強化年だし、それなりに楽しみにはしてたのですが、前もってパンフレットでキャストを確認しても知らない顔ぶればかり、とくにイケメンもいないしで、まさか恋に落ちるとは思ってもみませんでした。

演出:ニコラス・ハイトナー 原作:ウィリアム・シェイクスピア
出演:ロリー・キニア、クレア・ヒギンズ、パトリック・マラハイド

主役のハムレットを演じたロリー・キニアさん…本当にいい声で独白をされると、うっとりして死ねるんだね…ということに初めて気づかせてくれた俳優さんでした。シェイクスピア劇は「聴くもの」と言われていること、それを初めて体感しました。…演技も知的で繊細で、人間はこんな表情をするものなのか!と瞠目しました。ほんとに素晴らしい俳優さんです。


1幕の独白。

朗読だとこんなに印象が変わる。


面白かった「リア王」でさえ途中(次女の家の前あたり)で眠気に襲われたのに、4時間超えの「ハムレット」、ただの一度も眠いと思うことがなかった。それもシェイクスピア劇で初めてです(笑)上に貼った冒頭のシーン、ここから泣いてましたからね…。そのあとはキニアさんの動きを一時も見逃すまいと集中していました。

以下、演出など。

今回の「ハムレット」舞台は現代、常にSPが監視として張り付き、盗聴も行われている社会で、これは作品が作られたエリザベス朝の密告社会と通じているそうだ。そういえば2009年RSC(ロイヤルシェイクスピアカンパニー)のグレゴリー・ドーラン演出&デイヴィッド・テナント主演「ハムレット」も監視カメラからの映像が挿入されていた。

今回のハイトナー演出で新しいと思った点をいくつか。

ひとつ目は従来の解釈によるハムレットの、母ガートルードへのエディプスコンプレックスを思わせる仕草は一切なかったこと。もともと戯曲には二人が性的関係があるように暗示されている描写はないので、それは忠実なのかな。


ふたつ目は、ガートルードはクローゼットシーンで先王の霊を見てる。ハムレットには「私には見えない」と言うが、霊を見えてるから動揺してクローディアスの肖像画を踏んだのだと思う。そのあとのクローディアスへ協力しながらも拒絶感を増していく様子から(墓場で手を払いのける)、前夫の霊を目撃したことはガートルードに相当なダメージを与えたのだと思うが、その動揺ぶりから、もしかすると先王殺害に関しても少なからず知っていたのでは?とも推測した。毒杯であることを知りながら飲んだことも、その懺悔なのではないかと思った。


3つ目はオフィーリアの死は事故でも自殺でもなく、クローディアスの陰謀であること。オフィーリアの死を伝えるガートルードは、レアティーズに背を向けながらグラスに酒を注いだあと、クローディアスに向かって「乾杯」という仕草をする。そのとき「これでいいんでしょ?あなたのいう通りに言ってやったわよ!」という目配せをした。オフィーリア退場(連れ去り)に関わってるオズリックへのカメラワークからも、クローディアスの指示であることがわかる。

そして今回のオフィーリアの衣装はたいていスキニーパンツだったのに(観劇のときだけスカート)、ガートルードの「服の裾が人魚のように広がって」というセリフはそのまま変更されなかったため、より一層、証言の嘘っぽさが強まった。これはうまいなあ…。

オフィーリアはハムレットが狂ってる振りをしてることにも気付いてる。父ポローニアスの死のあと、真っ当にしていたら言えないこと(真実)を口にするために、ハムレットの真似をして狂った振りをしたのかな。レアティーズへの「忘れないで」という目と、野の花でなくそれぞれにゆかりのあるものを手渡したことから推測した(クローディアスに劇中劇で使った毒瓶と盗聴に使った本を、レアティーズには1幕で登場したぬいぐるみを渡したから。ガートルードへの人形の意味はわからないけど、裸で股を開くことから先王への不義を表してるのかな?とも思った)


あと旅役者が朗読する、ピラスが振りおろそうとした剣がピタッと止まるところは、ハムレットがクローディアスに一撃を加えようとするところと呼応すると思ってた(テナントのもオリヴィエのも振りかかってた)のだけど、キニアさんはそれをしなかったのが新鮮だった。振りかざして止める仕草はちょっとギャグっぽいよなあって思ってたから、キニアさんの演技はとても自然で、ひとつひとつの動きにも理由があって違和感がない。

このあたりハムレットが旅役者に演技のアドバイスのため演説ぶつところは、演技がうまいキニアさんだから説得力が十分で、よいシーンだった。そのあとの旅役者の朗読に感じ入って独白するところ、ノルウェー兵士と会ったあとの独白、どれも言葉が心に刺さってきた。ボロ泣き。

墓掘りとハムレットのやりとり楽しかったな。話してる途中で気づく、あの感じ!ポローニアス・墓堀り人の方はほんとうまい役者さん!


どのキャストも巧みで満足しましたが、その中でちょっと残念だったのはフォーティンブラス…。ちょい役とはいえ、芝居を〆る大切な役なのに、イケメンなだけじゃないか…。ハムレット絶命まで決壊寸前まで張りつめていたいたものが、ホレイシオとフォーティンブラスで、一気に現実に引き戻されました。がーん。


しかし、人は一瞬で恋に落ちるね!私は10/6に見たのですが、翌日はずっとキニアハムレットのことばかり思い出されて悶えてて(笑)、どうしてももう1度見たい!と10/8に2回目鑑賞してきました。今はキニアさんを知ってまだ10日しか経ってないなんて嘘みたい!です。毎日のようにネットで過去作品など調べまくっております。テレビや映画だと主役を張るタイプではないのと(脇を固める巧者)、出演してるDVDが日本で未発売のものが多くて悲しいです。

とりあえずキニアさんがイアーゴを演じてローレンス・オリヴィエ賞主演男優賞を獲った「オセロ」はまたNTLiveにて 12/12(金)〜12/17日(水)に上映です。もんのすごいっ楽しみ!
http://www.ntlive.jp/program.html

その前に、今月末からJLMとカンバーバッチ「フランケンシュタイン」も再上映があるんだ!ハドリーが出た「コリオレイナス」も!しかもコリオレイナスはあまりにも酷かった字幕が監修されて新訳とのこと。どれかは行くつもり。