パゴダの王子@新国立劇場

デヴィット・ビントレー芸術監督の任期最後の演目「パゴダの王子」を初日6/12と前楽14日夜の2回観てきました。

「パゴダの王子」
振付:デヴィッド・ビントレー、音楽:ベンジャミン・ブリテン、舞台装置・衣装:レイ・スミス、照明:沢田祐二、所作指導:津村禮次郎
指揮:ポール・マーフィー、東京フィルハーモニー交響楽団

★6/12(木)
さくら姫:小野絢子、王子:福岡雄大
皇后エピーヌ:湯川麻美子、皇帝:山本隆之
北の王:八幡顕光、東の王:古川和則、西の王:マイレン・トレウバエフ、南の王:貝川鐵夫、道化:福田圭吾、宮廷官吏:小笠原一真


★6/14(土)夜
さくら姫:米沢唯、王子:菅野英男
皇后エピーヌ:本島美和、皇帝:マイレン・トレウバエフ
北の王:福田圭吾、東の王:輪島拓也、西の王:小口邦明、南の王:宝満直也、道化:郄橋一輝、宮廷官吏:貝川鐵夫

この夏来日公演をする「War Horse(戦火の馬)」で2011年にトニー賞を獲ったレイ・スミスが舞台デザインをしているというので、それだけでもかなり楽しみな公演でした。切絵の富士山、大きな月、縁取りのトゲ、フクロウや蝶や、波や火焔模様、南国のハイビスカス、大きな太陽と桜…と次々に展開していく舞台はとても見ごたえがありました。なにより美しいのはサラマンダーの緞帳!ライティングによって青くキラキラ輝いて、幕間も目に楽しかったです。

衣装も平安朝(皇后はおすべらかしにポアント!)からバリ風ドレス、そして妖怪に、海の生き物(タツノオトシゴ、タコ!)まで多彩でした。雲や泡のチュチュも可愛かったなあ…。しかし脇役が個性的なわりに、主役のさくら姫の衣装はかなり地味。幕ごとに微妙に違えども、裾にほどこされた刺繍も同系色の糸で目立たないし、帯もあまり高級感はなさそうな。もうちょっと華やかでもいいのにな。


物語は、菊の国の幼い王子が埋葬されるシーンから始まる。父である皇帝と継母である皇后エピーヌ、妹のさくら姫が見送る。
数年後、さくら姫の結婚相手として4人の王がやってくる。実権を掌握している皇后はもっとも条件のよい相手に嫁がせようと図るが、さくら姫は頑なに拒否。そこへ5人目の候補サラマンダーが妖怪(とてもコミカルな動きでかわいい!!クラリネットの旋律と調和してる)を引き連れて登場。条件で選ぶような結婚であるならばサラマンダーと共に…とさくら姫は決意し、雲の上、海の底、火の中…と冒険の旅にでる。
パゴダの国へ着いたのちサラマンダーは継母に魔法にかけられ、姿を変えさせられ父と妹とも引き離された顛末をさくら姫に語る。ようやくサラマンダーが兄だと気づくさくら姫は魔女である皇后と暮らす父の身を案じ、家に戻り、皇后の正体を暴いて追放する。サラマンダーも兄の姿に戻り、「めでたしめでたし」。


4人の結婚相手というと「眠りの森の美女」だし、魔法で姿を変えられては「白鳥の湖」だし、物語の外枠は古典的なのだけど、主人公を兄妹としたところと、冒険するのは妹というのがビントレー版のおもしろいところ。

初見のときはとにかくブリテンの曲のつかみどころのなさと、ガムランの音の心地よさと仕事帰りが重なって2幕に睡魔に襲われました…。それでもダンサーたちの力量にはただただ感心。ビントレー監督の振付はけっこう複雑そうで、かなりテクニックがないと踊りこなせなそう。しかし小野さんはどんなときでも完璧にコントロールして優雅に踊って見せますよねえ。この1年、海外のバレエ団の来日公演も見ましたが、小野さんレベルで美しく踊れるダンサーはそうそういませんでしたよ。

福岡さんのサラマンダーがとてもよかったー。カルミナブラーナのときも感じたのですが、福岡さんはいわゆる王子キャラよりも、ちょっとクセのある変わった役のほうが生き生きしてるような…。トカゲの動きが気持ち悪くて、すごく好きです(笑)もちろん王子に戻ってからも素敵ですが。ただこの二人だとあまり兄妹に見えなくて、物語自体に疑問が残り、なんだか消化不良のまま終わりました。

が、2回目の米沢さん菅野さん組で見たら!もう!最強の妹キャラ現る!って感じで(笑)、物語のテーマである家族愛がストレートに伝わり、1幕の幻想の兄と踊るモブシーンや2幕で幼少期の思い出を踊るシーンなどホロリとする場面も何度かありました。3幕の4人の王を相手に立ち回るところも、おてんば姫を生き生きと踊っていて、心からわくわくしました。米沢さんは小野さんほどの完璧さはないのだけど、観客を引き込む力を感じます。初日にコネクトできなかった音楽も、2回目で耳が慣れたのか、踊りと音楽の調和も感じることができました。菅野さんも丹精な踊りでサポートも上手。

皇后役の湯川さんはさすがの、というべきキレのある踊りと演技力でした。前回のフォルトゥーナ役といい、権力を掌握してるの…似合うわあ…(あのフォルトゥーナは今でも脳内に焼きついてますからね!)。悪役をかっこよく演じられるのは技術力とさらにクレバーでなければいけませんが、湯川さんはどちらも兼ね備えてる。
本島さんのエピーヌは、この皇后もだれかに魔術で操られてるのでは…とちょっと優しさを感じるものでした。妖艶でよかった。タコのとき深海の生き物と「んーーっぱ」としてるのが可愛かった(笑)

4人の王は初日のキャストが安定感もありましたし、貝川さんと八幡さんの身長差によってアドリブがあったりして(3幕、皇后と王たちが踊る場面で、貝川さん南の王の背中の羽根が後ろに並んだ八幡さんの顔にちょうどかかり、それを八幡さんがいかにも迷惑そうに払いのけて客席に笑いがおきてたw)、楽しかったです。

2幕の雲や波の群舞も好きだったなあ。このカンパニーは群舞もみなさんスタイルよくて踊りもきれい。まだお一人お一人の名前を把握しきれてないけど、今回のパゴダでも第3キャストで奥田さんが入ったように大きな役にあがるのを応援したくなります。



初日終演後には、4年の任期最後の公演となったビントレー監督のご挨拶がありました。以下、記憶に残ってることをざっくりまとめます。

いちばん印象に残ってる作品はやはりこのカンパニーと作り上げた「パゴダの王子」。(震災後の2011年秋に発表されたこの作品が、兄と妹、家族愛の物語になったのって、やはり震災の影響ですよね)

4年間でダンサーたちはめきめきと成長し、そして今も成長し続けている。今夜の舞台でもプリンシパルの絢子や雄大は難しいステップをいとも簡単に踊って見せた。そして土曜日には花純と康祐が踊る。若いダンサーたちも台頭していることはすばらしいことだ。

この4年、いままで日本ではあまり上演されなかったような作品を積極的にかけてきた。ときにはみなさんに「白鳥の湖」のほうがいいと思われていたかもしれない。もちろん古典作品は大切です。しかしバレエはその時代を反映するものでなければならない(その時代のエッセンスを作品に反映させることで継続してゆくのが文化)


震災の混乱した時期を挟んでの4年間を全うしてくれたこと、わたしはそれだけでも感激していたのですが、さらに監督から「このカンパニーは家族」という言葉が聞けて、深い愛情を注いでダンサーを、カンパニーを育ててくれたことが伝わり涙がでました。

わたしは最後の1年間のシーズンしか見られなかったけれど、「火の鳥」「結婚」「カルミナ・ブラーナ」「パゴダの王子」「シンフォニー・イン・3ムーブメンツ」が見られたのは本当に運が良かったなあと思う。とくに新国立劇場のために振付られたビントレー作品はカンパニーの財産ですから、これからも定期的に上演してほしいです。