12 Years a Slave

それでも夜は明ける12 Years a Slave)」

監督:スティーヴ・マックイーン、脚本:ジョン・リドリー、原作:ソロモン・ノーサップ『Twelve Years a Slave』、出演者:チュイテル・イジオフォー、マイケル・ファスベンダールピタ・ニョンゴベネディクト・カンバーバッチポール・ダノポール・ジアマッティサラ・ポールソンブラッド・ピットアルフレ・ウッダード

わたしにしては珍しく公開初日に見てきました。
NYで「a free black man(自由黒人)」として生まれ育ち、演奏家として生計を立てていた男性ソロモン・ノーサップが、1841年のある日、ワシントンで拉致され、奴隷として売買されたのち12年ものあいだルイジアナプランテーションで過酷な生活を送らねばならなかった実話を元にした映画です。


わたしは理不尽な話や、暴力をもって不当に扱われる話がいちばん嫌いなので、若干歯を食いしばりながら見たのですが(苦笑)、苦しい気持ちになっても見てよかったです。

今では奴隷制なんてものは「悪」の一言で片付けられるけれど、その当時の白人が黒人を財産として扱う感覚や、黒人同士でも「自由人」と「奴隷」では大きな隔たりがあったことなど、細かい描写がなされててうまいなあと思いました。

邦題の「それでも夜は明ける」は、なんとか「自由黒人」の身分を取り戻したソロモンにとってはそうだろうけれど、生まれたときから死ぬまでずっと「奴隷」として生きていかねばならない残された黒人たちに「明ける夜」なんてあるのかよ!?と思いました。地獄そのまま生きてる毎日を「終わらせて」と懇願する若い女性奴隷パッツィー(ルピタ・ニョンゴ)をみて、先日知ったボンヘッファーの言葉を思い出し、頭のなかがぐるぐるしました。

「僕たちと共にい給う神とは、僕たちを見捨て給う神なのだ。たとえ神がいなくても、僕たちはこの世の中で生きなければならない。神の前で、神と共に、僕たちは神なしに生きる。神は御自身をこの世から十字架へと追いやり給う。神はこの世においては無力で弱い。そして神はまさにそのようにして、しかもそのようにしてのみ、僕たちのもとにおり、また僕たちを助け給うのである。」(ディートリッヒ・ボンヘッファー『抵抗と信従』新教出版社

安易な救済などこの世にはないと、横っ面たたかれたような衝撃的な言葉で、すぐさまメモしました。わたしはキリスト教信者ではないし、葬式仏教徒って感じの信心の無さだけど、ただ、救いがない過酷な状況であっても尊厳を失わずに最後まで人間的であるためには信念が必要だと考えていて、信仰はその土台になりえるとも。だからってどこかに入信しようとはさらさら考えてないけど。信仰という行為そのものの特異さを考察したいお年頃です。

と、脱線したけれど、映画のなかでもキリスト教の教えは出てきます。農園主がそれぞれ都合の良いように聖書を解釈し、奴隷たちに説いてみせます。奴隷たちは現世で叶えられない安寧や幸福を来世に託するのです。こういうときの宗教の無力さ。やるせない。

主演のイジオフォー、ニョンゴちゃんなど演じてる役者さんたちが素晴らしいです。とくに非情な農園主を演じたマイケル・ファスベンダーの狂気がかった表情がすごい。演じるには勇気の要る役柄だとわたしが思うのは素人だからだろう。こういう役こそ、役者冥利に尽きるのだろうかねえ。

その点、カンバーバッチさんとブラピは画面にいると、「ばっちさんだー」「ぶらぴだー」て思ってしまっていけない(個人の感想です)。しかもふたりともなんかいい役だしな…ブラピのセリフなぞちょっと唐突すぎる感ある。いやいいけどさ…あれこそ無名の俳優のほうがよかったんでないのか。
あのブラピのセリフの違和感って、外からやって来た旅人というのがいちばんの理由なのかなあ。奴隷制度に反対してたカナダ出身でかつ旅人だから、南部の白人とは見識、視野が違うってことなんだろうけど、まるで今の私たちの「(建前の)正義」目線と重なるような気がした。居心地が悪いシーンです。恥ずかしくなるんだよね…自分の不作為を指摘されてるようで。まあ、そういう効果を狙ってるんだとしたら適役でしょうか。

ゴスペルと、そして虫の音や風の音が映画の最後に残った。過酷な状況でも、自然を見て美しいと思ったり虫の音を聞いたりするのだろうか。なにが見えていたんだろう。ソロモンの目が画面いっぱいに映るたびに想像した。


Roll Jordan Roll

原作本

12 Years a Slave: A True Story of Betrayal, Kidnap and Slavery (Hesperus Classics)

12 Years a Slave: A True Story of Betrayal, Kidnap and Slavery (Hesperus Classics)

日本語訳はなんと6月4日発売予定だそうで…。日本での人種差別の関心の低さゆえなのかしら…。せめて映画公開にあわせるとかできなかったのかな…。

12(トゥエルブ)イヤーズ・ア・スレーブ

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