東京バレエ団 「ロミオとジュリエット」@東京文化会館

東京バレエ団創立50周年シリーズで初演されたジョン・ノイマイヤー振付「ロミオとジュリエット(全3幕)」、2月7日の公演を見てきました。
この日の主役ふたりはハンブルクバレエ団からのゲスト、エレーヌ・ブシェ(ジュリエット)、ティアゴ・ボアディン(ロミオ)です。このふたりのことは昨年8月の「ヴィシニョーワ・ガラ」で観て、ものすごく好きになったので、ノイマイヤーの作品で全幕見られるなんて…!とキャストに決まってからずっと楽しみにしてました。

振付:ジョン・ノイマイヤー、装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ
ロミオ:ティアゴ・ボアディン、モンタギュー夫人:山岸ゆかり、モンタギュー公:森田雅順、ベンヴォーリオ:杉山優一、マキューシオ:木村和夫
ジュリエット:エレーヌ・ブシェ、キャピュレット夫人:奈良春夏、キャピュレット公:高岸直樹、ロザリンデ:渡辺理恵、ティボルト、ジュリエットのいとこ:森川茉央、パリス伯爵:梅澤紘貴
ヴェローナ大公:飯田宗孝、僧ローレンス:岸本秀雄
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ、指揮:ベンジャミン・ポープ、演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

どこから感想をかいていいのかわからないほどまとまらない。まず言えるのは若さ、そしてスピード感。

ノイマイヤー版はロミオとジュリエットだけでなく、登場人物がみな若い。僧ローレンスはロミオの幼馴染の若者で、ジュリエットの母親は10代でジュリエットを生み30前後くらい?甥のティボルトと愛人関係であることがあきらかに見て取れる。キャピュレット公はそんなことを気づいていないのか鈍感さを漂わせてる。マクミラン版の「父親としての威厳」のようなものは全くない。これはわたしがロイヤルバレエのギャリー父さんが印象に残ってるせいなのか、演出のせいなのか曖昧だけど、ノイマイヤー版には「父性の欠落」を感じた。

たしか原作ではローレンスは初老でロミオたちにとっての父親代わりとも解釈できる。その彼が二人だけの結婚を許したことにより権威の裏づけがあることに比べ、幼馴染の若者ローレンスは二人の恋の激情にだた飲み込まれ毒薬を渡しているようにも見られるのだ。ロミジュリ作品を見るたび思う「大人の計画にしてはずさん」「ホウレンソウしっかりして…!」という不満(笑)も、「若いから仕方ない」て納得しちゃったもの。

肝心の主役のことを。どんなロミジュリでもジュリエットが少女から女性へ変化する様を描いてると思うけれど、ノイマイヤー版ジュリエットの変化は激烈。少女のジュリエットは結婚話により周囲から「女性」にさせられることに戸惑う。年頃の女の子ができているレディーとしての振る舞いが上手くできない。内向的で想像力が豊かな彼女がロミオと出会って、ただ一人だけを頼りに一直線になる「痛さ」が切なく理解できるし、そのための描写がしっかりされてる。後半、舞台セットが何もない中で走るだけのシーンや、薬を飲んでロミオと幸せになる未来の描写、または死んでしまったティボルトの幻想…。

そうだ、ジュリエットにはいつも死の影がつきまとってる。旅の芝居一座から飛び出てくる骸骨マントは物語の要所で何度か登場するし、ティボルトの死以降のジュリエットの母親は白塗りで喪服を着ており、あれはそのまま死神なのじゃない?

ロミオは天性の明るさを持った男の子。人懐っこく、正義感があって、周りに人が集まる感じ。陰のジュリエットが強烈に惹かれるのがわかる。演じたティアゴがイメージにぴったりだった。この舞台は二人が出会ってたった4日間のことを再現されてるのだけど、そのスピードを加速させてるのはロミオの踊りで表現される「若さ」と「力強さ」だと思う。マイムがなく、ほぼすべての感情を踊りで表現されてるのでダンサーたちにはタフな演目だと思うけど(ノイマイヤー特有の高難度リフトもあるし)

あと深く印象に残ったのは舞台展開の速さ!ノイマイヤーの舞台は同時性が最重要という感じで、映画的手法が使われることが多い。舞台のあちらこちらで物語が進行するから視点を定めにくいという欠点があるのだけど、シンプルで機能的なセットが暗転なしで、次から次へと流れるように展開することで難なく集中して感情移入できてしまう。この舞台転換はうなりました。

あと場面ごとに印象的な「画」があるの。舞踏会が始まるまえのシルエットだけの場面とか、ジュリエットが走るだけの場面の現実感のなさとか、冒頭の早朝のシーンなどはまだ靄が残る空気が澄み切った感じが伝わったので、あれらは照明の力。

こんなふうに考えれば考えるほど、緻密に計算されてることがわかる舞台でした。今回1回しか見なかったので、あと何度か観て、もう少し細部を確かめたかったなあと思いました。再演希望。

ジュリエットのエレーヌは超絶美しかった…!あの手足…見てるだけで「生きててよかったよ…」と思えるくらい好きです。ロミオと手と手を合わせる振り付けはモチーフのように何度も出てくるのだけど、どのシーンも同じ心情では合わせてない。絶命前には踊らない分、最後にロミオの手を取り自分の手を合わせるところは心がキリキリした。

カーテンコールでもまだ泣きやまず涙顔のティアゴが、優しくエレーヌを抱き寄せてキスした姿が忘れられません。また来日して踊ってくれることを願ってます。