ヒューマン・シネマ・フェスティバル2013

国連UNHCR協会主催の「ヒューマン・シネマ・フェスティバル2013*1」に参加して、映画『そのひとときの自由(独:Ein Augenblick Freiheit / 仏:Pour un instant, la liberté / 英:For a Moment, Freedom 』)と、『ル・アーヴルの靴磨き(Le Hevre)』を観てきました。

難民問題を映画を通して伝え、考えてもらうきっかけを提供するチャリティー企画で、今年で3回目だそうです(その前は「難民映画祭」という名前で同様のことはやってたみたい)。わたしは直前まで知らずにおりました。バレエのライブビューイング「シアタス」がイオンシネマ系なので、その情報を見るためにサイトチェックしてたらたまたま目にとまったのと、『そのひとときの自由』の監督がイラン出身ということ、各国で賞を獲ってる作品にも関わらず日本では配給会社が買ってなかったそうで、難民映画祭でしか上映する機会がなさそうだというので、行ってきました。


『そのひとときの自由』監督:アラシュ・T・リアヒ(Arash T. Riahi)
イスラム共和国になってからのイランを脱出、トルコで難民申請をする3組の家族、グループを「ドキュメント」と言っても過言じゃないくらいに現実的に描いた映画。監督はもちろんのこと(イラン→オーストリア)、役者もほとんどがイランやレバノンなど中東からヨーロッパへ難民として移住した人たちだそうで、たぶん映画で描写されていることのほとんどを体験として知っているんだと思う。

3組はそれぞれ個人が違う結末を辿る。晴れて難民申請が認められ新しい土地へ行く人、申請は認められたが祖国イランへ戻る人、申請が認めらないことを苦に国連事務所前で焼身自殺する人、強制送還され銃殺刑に処せられる人…そのどれもが「本当」のことなんだと思った。

わたしはといえばどうしてもラミンのことを思わずにいられないわけです。映画でも先にオーストリアに脱出していた両親のもとへ行くために年長の従兄弟とその友人に連れられる姉弟の子供が出てくるんだけど、それまで育ててくれた祖父母と涙涙で別れるところから始まるので、あぁラミンのご両親も非常につらい思いをしながら血縁を断ち切って出国したんだろうな…ラミンは生後2ヶ月だから記憶はまったくないだろうけど、お兄さんはどの程度覚えているのだろう…とか想像すると他人事とも思えず号泣(いやラミンの両親が「移民」なのか「難民」だったのかは知りませんけれどね…でもカナダ国籍を取得したということは祖国にはもう帰ることができないと覚悟してただろうことは想像できます)

映画のなかで「いつかイランへ帰れる日がくるわ。イスラム政権が崩壊しました!ってラジオから流れる日がくるのよ!」と夢見てる女性の言葉から、もう30年以上経ってるよ…ただ今年ローハニ大統領になってから国内の政治犯への釈放や対米関係も変化しつつあるようだけど…。

3組の中にはクルド人男性もいるんだけど、難民申請を待つトルコで彼がクルド語の歌を歌ってたらレイシストから暴行を受けるという、クルド問題にも触れる描写もありました。

シリアスな映画だけれど笑ってしまうところもたくさんあって、まず子供たちがとても愛らしいし、大人たちも状況に屈しないユーモア精神を持っている。公園の白鳥捕まえて食べるシーンとか不謹慎だけど笑ってしまったよ。そのあとの羽毛がずっと舞ってるのとあわせて。。。


主演のひとり、アリ役を演じたナヴィド・アクハヴァンNavid Akhavanがとてもよい演技でした。1980年イラン生まれ、4歳のときにイランイラク戦争を避けて両親とともにドイツへ移住し、一時期はアメリカで暮らしたこともあるそうだけど、今はドイツを中心に俳優、歌手、監督業で活躍しているようです。ドイツ語のほかに英語、ペルシャ語トルコ語も話せるよう。国の混乱に巻き込まれても、新しい土地で才能が発揮できて本当によかったですね。

島国日本にとって、とても遠い出来事に思える難民問題でも、こうして体験者を知ると受け止め方が変わるから、この映画を観られてよかったと思いました。できれば今回のことをきっかけに配給会社が買って、単館系で上映してくれればいいのにな。おもしろい作品でした。


ナヴィドさんを検索してたら、お友達の披露宴でマイケル・ジャクソンのパフォーマンスしてるの見つけた。かなり踊れてる!すごい。


映画には関係ないけど、イランからトルコへ国境越えするときのブローカーが奥さんの衣装からクルド系なんだなあ…とわかったり、途中のワン湖でしばし観光気分なシーンで高野秀行さんの著作「怪獣記」のジャナワールを思い出したり、あのへんが好きなわたしとしてはとてもとても楽しめました。

怪獣記 (講談社文庫)

怪獣記 (講談社文庫)



ル・アーヴルの靴磨き』は言わずと知れたアキ・カウリスマキ監督作品ですから、すでに鑑賞したかたもたくさんいらっしゃるでしょう。ニジェールからコンテナに詰められイギリスまで密航する途中のルアーヴルで見つかっちゃう少年と、それを匿う大人たちのお話。上の作品とは打って変わって洒落ててユーモア満載で、なんだか落語を見てるような気分になりました。