高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』出版記念トーク&サイン会@紀伊国屋書店新宿南店2/27

敬愛するノンフィクションライター高野秀行さんの新刊発売イベントに行ってきました。高野さんは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」をモットーに執筆している作家さんで、UMA探しとか(「怪獣記」、「アジア未知動物紀行」)、西南シルクロード踏破した結果インドに不法入国とか(「西南シルクロードは密林に消える」)、ミャンマービルマ)のゴールデントライアングルで芥子栽培してアヘン中毒とか(「アヘン王国潜入記」)、他人の記憶を頼りに旅をするとか(「メモリーエスト」)、砂漠でマラソンしたり(「世にも奇妙なマラソン大会」)、私小説(「ワセダ三畳青春記」「またやぶけの夕焼け」)と多様な作品を次々おくりだしている方です。

物事への視線がフラットで、知性があって、冷静で客観的で、しかし情熱がなければ到底成し遂げられないようなことをやってのけ、なのに全く偉ぶらない高野さん。わたしが今生でもっとも尊敬して憧れ続ける人物のなかのひとりだろうと思います。


2週間前の土曜日10時から予約開始でして、わたしは寝坊して10分くらいに電話したら11番だったのです。おぉ人気ある!と嬉しくなり、本日会場に行きましたら、わたしの前に座ってる10人中8人は女性!会場全体でも若く奇麗な女性が半数で驚きました。3年前くらいのイベントでは1/5くらいの女性率だった記憶。今回はソマリ本、もっと「漢」な集まりになるのかと思ったら意外でした。


謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

アフリカの角」部分にあるソマリアは1991年から内戦が続き、20年以上ほぼ無政府状態と言われています。外務省の安全情報では20年以上ずっと真っ赤「退避勧告」、日本での報道もソマリア沖の海賊とか、日本の商船を守るために自衛隊派遣とか、旱魃による大飢饉だとか、イスラム原理主義武装勢力が跋扈してるだとか、そういう危険性の高いネガティブなものが多いです。


しかし実はソマリアの北西に位置する旧イギリス領が国土のソマリランドは、国際的には認められてないものの独立国家であり、経済も治安も安定している…??まったく未知の国、世界中のメディアも研究者もほとんど足を踏み入れないソマリで高野さんが取材を敢行し、たぶん世界で初めてこんなに詳細なレポートが書かれたであろう、まさにソマリ研究の第一人者(高野さん)の本となっています。


トークでは本に掲載されなかった写真も登場し、ソマリで関わった人物中心にお話していただきました。本はソマリランド独立の英雄(イブラヒム・メガーグ・サマター)が千葉県東金の大学で経済学を教えてた話から始まるのですが、その先生のお写真も。残念なことにお亡くなりになったそうで、ご遺体はソマリランドに運ばれ国葬されたそうです。意外につながりのあったソマリランドと日本…。


取材地はソマリランドだけでなく、「海賊国家プントランド」に内戦がもっとも激しい南部ソマリアまで広範囲にわたり、それぞれの社会の成り立ちが平易な言葉でわかりやすく書かれています。くすくす笑いながら読める政治の本てなかなかないですが、そう、これは政治または経済、いや社会学文化人類学?あらゆる分野の学問が交差した本だと思います。

無政府状態であるにもかかわらずインフラは充実していて、電気も水道もインターネットも携帯電話も、アフリカの他国に劣らないどころか、むしろ優秀なサービスとのこと。究極の民営化された社会なのね。

報道メディアも発達していて、衛星放送局は3、4局だったかな?そのほかに国内放送局も何社かあるそう。衛星放送局の中のひとつの、とある支局長はなんと22歳の女性!高野さんの現地での取材も面倒見てくれたそうで、今度は日本へその彼女が取材に来るそうな。高野さんと一緒に日本を巡ってソマリで初めての日本紹介番組を作ろうとしてるんだとか。


このように高野さんのルポの最大の特徴は、登場人物が非常に魅力的だということ。高野さんの目を通してみる世界というのは、人間がすごく面白いんです。はじめに書いたように、先入観がない目線、そして何がきても受け止める寛容さの賜物なんだと思うけど、見たこともない国の人なのに、読んでいるだけでとても近しい存在に感じられる。誰にも真似できない高野さんだけの才能だと思う。


読んでると「ほんとにこんな国あるの?」て不思議になってくる、非常に面白い国です。「知らないことを知りたい」人に読んでほしいです。


1時間のトークが終わり、質問コーナー。
Q: ソマリランドの次に取材、興味があるものは?
A: ミャンマーのシャン州の独立運動のことをまだ何も本にしてないからそれを書きたい。あとシャン料理は調味料に納豆のような発酵食品を使うので、日本人にはとても馴染みがあって美味しいから、それを取材して本にしたい。
あとブータンが100年ぶりに戦争した話というのがすごく「おとぎ話」じみていたから、それが事実なのか取材したい。(戦争なのに「恨まれないように、傷つけずに捕虜にし、その捕虜を歓待する」という作戦だったらしい(笑))


Q: カート(国によっては非合法の覚醒植物)を食べるという表現があったが、本当に飲み込んでしまって消化機能は大丈夫でした?
A: イエメンでは噛み終わったら吐き出すが(ガムの要領)ソマリではそのままバリバリ食べる。砂埃がついたまま食べていたが、下痢ひとつせず本当に調子よかったし元気だった。ただ、便秘がすごい。死ぬかと思うほどのときがあった。


Q: わたしでもソマリランドへ行けますか?
A: 行けます。ソマリランドは安全でした。ネットで検索すると大使館のHPがあり、ビザ申請書もダウンロードできます。ケニアエチオピア、ロンドンなどで申請できます。

そのあとのサイン会で、名前を入れてもらうのはよそうかな?と思っていたのだけど、気が変わって「まさわ」で書いてもらおうと思い立った。今まで何度か高野さんのサイン会には行ってるけれど、毎回本名で書いてもらっていたから初めての試み。「まさわ」で書いてもらえば写真をブログやツイッターにアップしても平気だしね〜なんて軽いノリだった…。そうしたら。


わたしの番になり、予め名前を書いたおいた紙を高野さんへ渡したら、「あ、まさわさんて、あのまさわさん?」…へ?「あの」まさわさん???と戸惑っていたら、「ツイッターとかで、よく話してくれてますよね?」…えええええええ????確かに高野さんのことはよく話してます、本もリンク貼ったりしていますが…でもでも…混乱する頭で「あの…読んでくださってたのですか??」と恐る恐る尋ねたら、「もちろん読んでますよー」とのこと…。

ひぃぃ…その瞬間血の気が引きましたが、辺境料理教室という企画はどうですか?と、単純にわたしが高野さんと一緒に料理をつくりたいがための希望を伝え(笑)、握手をしてもらって、あまりの衝撃にフラフラになりながらJR新宿駅まで歩いて、電車乗って帰ってきました。

あぁ、まさかまさかご本人に読まれていたとはね…。そういえば高野さん以前ブログでこんなこと*1書いてたものね…そらね、エゴサーチしてますわ…。だからといって、前半褒めたわけじゃないですよ!!

まあそう、文体はふざけてるときもありますけどね、でもそれも、やってることのハードさを全く見せない仕掛けというか、ギャップ萌えですよ!(あれ?用法あってる?)面白いならいいじゃない!