夏の文学教室 文学・「土地」の力

・1時限目 日高昭二(神奈川大学教授)「北をめざす人々」
北とは北海道のこと。北海道の開拓の歴史、アイヌの言葉、北海道を舞台にした文学作品のことについて。こういうときの大学の先生のお話は、たいてい昼寝向きという感じだが、北海道という土地の近現代における翻弄されぶりを改めて認識できて、興味深く聞いた。そしてやっぱりイザベラ・バード『日本奥地紀行』は読んでおかないとなあ…とここ数年ずっと思いながらも実行していないことを思い出した。あと開高健『ロビンソンの末裔』も要チェック。


・2時限目 伊藤比呂美(詩人)「土着のチカラ」
エッセイも詩もお経の翻訳も、まだ十分には読みこんでないのだけれど、それでも初めの1冊を読んだ瞬間から大好きな伊藤さんを初めて拝見した!す、すごいっ!!のっけから凄まじい勢いでしゃべりまくる。伊藤さんと「土地」との関係性について、今までの人生略歴から話してくださったのだけど、全部笑い飛ばす勢い、あっけらかんとお話になって、会場は笑いの渦でした。

作品と同じリズムなんだなあ、しゃべり方も体の動きも。だから、あの言葉のリズムになるんだ。すごく腑に落ちた。最後に「鰻と鯰」を朗読してくれたのだけど、ありありと情景が見え、やすやすと神話時代にまで時空を越えた。たった3分ほどのあいだに、すごいところまで連れて行かれた。言葉にしかできない種類の魔法だった。


・3時限目 坂東玉三郎(歌舞伎役者)「泉鏡花の世界」聞き手 真山仁(作家)
いまや人気作家の真山さんはフリーライター時代に舞台関係の記事を手がけていたそうで、まだ駆け出しのことに玉三郎さんにインタビューして以来18年、お付き合いがあるそう。

玉三郎さんの舞台はまだ観たことがないけれど、今日の佇まいが素敵だったわ〜。1時間のお話のあいだ、身じろぎもせずピシっとして、でも柔らかい印象で、ほへえ〜と間抜けた声が漏れそうだった。芸事に対して尋常ならざるストイックさを持った方、という印象だったので、もっと寡黙で怖い雰囲気があるのかなあと勝手に想像していたけれど、テンポよく、しかし心に一番しっくりくる言葉を選んでお話してました。

玉三郎さんは10才までに色や形の美意識が固まっていたとのこと。4歳のころ、家の照明に蛍光灯が導入されたとき、色のみえかたがぜんぜん変わってしまったのがイヤで(朱色や黄色などはとくに微妙な違いがあっても全部同じ朱色、黄色に見えてしまったそう)、自分が使う部屋や共用部の照明には使わないで、と両親に頼んで、そうしてもらったそうな。4歳で!

泉鏡花の作品を初めて観たのは9歳ころで、あぁ理想的な世界だわ!と思ったそうだから、ほんとうに生まれもって非凡であったのだなあ。そして、その感覚や才能を人生かけて引き受けるため、惜しまずに努力をしてるから「天才」なんだろうなあ…。

泉鏡花作品の解釈や、好きな役、台詞など熱心なファンの方には堪らないであろう内容でした。人間の根源を表現するためには「わからなさ」、現実を飛躍することが必要。すべてを明らかにしなくとも、全体を見渡したときに心に押し寄せるものがあれば、それは伝わったということだと思う。というようなことをおっしゃってました。あくまでわたしの記憶として。