読了

癌だましい

癌だましい

この5月に食道癌で亡くなった著者が残した作品は、本に収録されている文學界新人賞受賞作「癌だましい」と、絶筆の「癌ふるい」だけなんだろうか。読み終わって、もっともっと読みたい、この著者の話が聞きたい!と切に思った。

「癌だましい」は死期が近づいている場面からはじまり、ガン告知されるところまで時系列が逆行する構成。人生において何よりも「食べること」「料理すること」を大切にしてきた主人公が、自分の唾さえ飲み込むことができない。告知されたときには末期で、手術や化学療法も一切受けず、最後の最後まで「あれが食べたかった、これが美味しかった」と食への執念を忘れない。

ガンの体を蝕む描写が、実体験があるから、ということを越えている。「闘病小説」などと帯にはあったけれど、これはあえて呼ぶなら「受病小説」なのではないか。冷静な観察眼で自分の体をとらえ、残酷なまでに語る。闘ってなどいない。傍からみれば怖いほどに、病を受け入れているような印象をもった。

「癌ふるい」は末期ガンと告知されてすぐに、親戚友人知人へ末期ガンであること、手術や化学療法は一切受けないことをメールにて一斉送信し、それに対する返信が並ぶ。人によってさまざまな反応、言葉があり、主人公はそれに「マイナス50点」「プラス85点」などと点数をつけて「ふるい」にかけていく。

うわーえげつないって思うけれど、でもその返信が面白い。相手の病状よりも自分は今こんなにつらいのよって書き連ねてくる人とか、ああーいそう、いるよこういう人…とか。で、こういうとき自分ならどんな言葉を相手にかけられるだろうか…、何が正解で、どんな言葉が慰めになるのだろうか…いや、慰めになるような言葉などないのかもしれない、ではせめて、傷つけずに真心を込めた言葉が出せるだろうか。短い文章だけれど、読み終わって、小さく叫びたいような気持ちになった。