高野秀行トークショー@西荻窪のまど

イスラム飲酒紀行』発刊を記念してのトークショー。そもそもこの本はわざわざ取材したものではなく、イスラム圏で取材してるときに一日の終わりとしてどうしても酒が飲みたいと、表向きは飲酒が違法である場合が多いイスラム圏で酒を探し回っているうちに、面白いエピソードがたまったのでまとめたもの。

高野さんがお酒を飲むようになったのは95年にミャンマーのとある反政府ゲリラの村で芥子栽培をしていたときアヘン中毒になったのがきっかけだそう(詳しくは『アヘン王国潜入記』で)。日本に帰ってきて禁断症状を抑えるためにお酒に頼るようになり、それ以来一日の締めくくりに飲まないとすっきりしないと。ってここまで書くと「どんな怖い人なの…」と思われるかもしれませんが、高野さんは穏やかな口調でおもしろ話をされる紳士的な方です。世界中を旅しているので、各地の情勢や歴史にも詳しく、何ヶ国語も操る知的な方です。そしてやはり眼光鋭い。もうかっこいい!大好き。

イスラム圏、とくに中東のテロのニュースでしか知らない日本人にとってムスリムは怖い、不寛容なイメージがあるけれど、実際現地へ行けば人をもてなすのが大好きで、懐っこい人が多く、そして密造酒もあるし、こっそりお酒を飲む人はいると(笑)男女同席しないとか、女性だけの行動が制限されてると聞くとムスリムは男尊女卑と思われがちだが、ただ役割分担があるだけ、むしろ女性が男性を何人もひきつれ買い物袋をたくさんもたせて…なんて場面をみると「男は女性にとっての使用人か…」と思うこともあると。画一的な見方をしてしまうと見えないことはたくさんある。この本では、それがお酒で浮かび上がったということかな。

高野さんの本の魅力は、登場する現地の人が「○○人」ではなくて、血の通った、いま生きている「個人」であることが強烈に伝わってくるところ。先入観とか枠にあてはめて相手を見ていないから個性が伝わる分、読んだあと親しみを感じて、遠い国だと思っていた異国の歴史や政治情勢なども理解できて、読む前とは見方がかわる。面白く読んでるだけで!ミラクル。

脱線話で印象に残っているのは

  • パキスタンはやはり敬虔なムスリムが多く、日本国内にある100以上あるモスクのほとんどはパキスタン人が建てた。今回の震災でもいちばん熱心に炊き出しなどの支援活動をしたムスリムは在日パキスタン人らしい。
  • イランは戒律がとてもゆるく、中東のなかでもちょっと次元が違うように感じた。
  • 男女同席できないから、ゲイもいる。同性愛は戒律違反であるので、厳しく弾圧されるけれども。
  • 現地では一日の終わりに必ず日記を書く。食べ物、物価、言葉など詳細に大学ノートで2-3ページぎっしりくらいの分量。
  • 何ヶ国語話せるかはよくわからない。今ここで話せと言われても困るけれど、現地に一日くらいいれば勘を取り戻して話せる。あといくらフランス語ができても、話題によっては何も話せないことがある。例えばファッションとか、パリのこととか。しかしUMA(未確認生物)についてならフランス語でいくらでも話せる。
  • 今後の予定は、国際社会から認められていない独立国家ソマリランドにまた取材にいくので、それをまとめる。あとソマリ語の「指差し会話集」を出版するのが夢。

トークショー終わりではトルコのお酒「ヤク」がふるまわれ、まあ飲兵衛の端くれとしてご相伴あずかりました。アニス入りの蒸留酒で、水で割ると白濁するヤク。アルコール度数は45度と高いのだけど、甘い香りと後味に、これは「あぶない」飲み物だと思った。飲みやすいお酒は気がついたら「ここはどこ?」みたいに、映画『ハングオーバー』とまではいかずとも遠からず的状況になりますからね…みなさまも気をつけましょうね…。

イスラム飲酒紀行

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飲兵衛必読!
アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

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ヤク中必読!
メモリークエスト (幻冬舎文庫)

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おとなの週末 2011年 07月号 [雑誌]

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