Taiko Matsuo_Layered@ポーラ美術館アネックス


松尾たいこさんの個展を観るため銀座へ行ってきた。先月から開催されていたので、ずっと観にいこうと思いつつ会期あと1週間に迫り、焦っての本日。ツイッターやブログで松尾さんが新作・大作に取り組んでいらっしゃるのをみていたから、というのもあるかもしれないけれど、なにより震災後にこういう絵を書ける松尾さんはすごいと思った。

以前、角田光代さんとのトークショーで「きれなものしか見たくない」とおっしゃっていて、そのときは「さすが芸術家!繊細なんだな」くらいにしか思ってなかった。けれど、当然ながら日常生活において「きれいなものだけ見る」ことはできない。とくに3月の震災以降はだれもが混乱してたと思うし、ネガティブな影響を受けなかった人はいなかったと思う。そういう環境において「きれいなものだけ見る」というのは、強い意識を持たなければ到底できないことだ。
それでもなお、感情が侵食されるような物事を受け取ってしまったとき、それをどう表現するのか。濁流のままに感情をあらわす人もいるだろう。しかし松尾さんはそうしない。沈殿するのをひたすら待ち澄みきった清水をくみ上げる、または暗闇のかすかな光を探し出す。泥まみれの石の中心にある輝く結晶を削りだす。そうしてあらわれたのがあの絵なんだと思うと、いま見ることができてよかった。安堵のようなものを感じた。

そして庄野潤三の小説を連想した。晩年の美しい結晶がつまった作品群を。おもて(表・面)にでてることだけがすべてじゃないんですよ!暗いことを書かないからって、それが「ない」とは限らないんですよ。でも、案外そこまで想像する人は少ない。表面しか見えないから。見えることだけで判断するから。言葉にできなかったこと、顔に出せなかったこと、あえて伝えなかったこと、そういうものこそが個人の半分以上を占めているんだと、わたしは思っている。

展示されている絵で好きなものは、松尾カラーとでも言うべきピンクとグリーンの配色の、あれは桜がモチーフなのかしら?あと、夏の木漏れ日に照らされた道の絵。色がほんとに素敵なので、こういうテキスタイルがあれば、洋服作ってもらうのになぁと思い、松尾さんにツイッターで言ってみた☆松尾さんはファッションも素敵だし、ファブリックメーカーの方、ぜひコラボレーションしてください〜。