読了

女中譚

女中譚

小さき花々 (河出文庫)

小さき花々 (河出文庫)

『女中譚』は3篇構成で、「ヒモの手紙」は林芙美子「女中の手紙」、「すみの話」は吉屋信子「たまの話」、「文士のはなし」は永井荷風「女中のはなし」がそれぞれ元ネタだそう。で、さっそく最寄図書館で吉屋信子「たまの話」が収録されている『小さき花々』も借りてきた。まず中島さんの『女中譚』はすみという名の元女中ばあちゃんが、秋葉原メイドカフェ通いをして若い子相手に問わず語りをしていく回想録。『小さいおうち』『イトウの恋』に通じる史実リミックス。
「すみの話」の登場人物マリコお嬢様がやたら妖艶な魔性少女で、読みながら「おぉ」と感嘆したのだけど、のち吉屋信子のを読んだら、元ネタはぜんぜんそんなじゃない。むしろ『小さき花々』収録作品はどれもこれも「少女のための道徳読本」みたいな説教じみた話が多くて(それはそれで面白いんだけど)、以前読んだ吉屋作品(花物語、屋根裏の二処女)はもっと華があって、でも薄暗くて、憧れと背徳が共存してるみたいな印象があったので、あれ?というかんじ。だから中島さんは元の作品だけでなく、その作家の持ち味さえもリミックスして「すみの話」を仕立てたのだと思うと、さらに「おぉ」と思ったので、他の2作品も読みたい。そして中島さんの才能に感嘆したい。


悪童日記 (Hayakawa Novels)

悪童日記 (Hayakawa Novels)

谷中の一箱古本市で本読みのお姉さん方から「これを読まずに死ぬんじゃない!」と猛烈に薦められた本。本編では明らかにされてないが、読んでいれば第二次世界大戦当時のヨーロッパ、作者の出身地ハンガリーが舞台であることがわかる。聡明な双子の男児が書いた「作文」という体で構成されており、生き抜くために重ねる「非行」が感情を排して淡々と書かれている。文章が簡潔なのでさらさら読んじゃったけど、ちょいちょい「ええー!」「ひぃーー!」となった。*1さらに最後まで読んだら三部作だというじゃないの!なんでお姉さん教えてくれなかったの(涙)図書館が蔵書点検中で閉まってるため、すぐに続編も読めず悶々としている。


ツリーハウス

ツリーハウス

その悶々を見事に解消してくれた分厚い一冊。戦中に逃げ出すように日本から満州へ渡り、戦後引き上げ、たどり着いた新宿で中華料理店を営み始めた祖父母から両親、子どもと三世代の「昭和史」。もう、角田さんはどんどん大作家への階段を昇っているなあと思った。角田さんはここ数年「家族」がテーマの小説が多く、はじめのうちは母子の狭くて緊密な関係性を扱うことが多かったけど、今夏にでた『ひそやかな花園』ではもっと広がって、そしてこの作品は大樹のような、脈々と続いていくとてつもなく大きな、人の営みが描かれていて、角田さんがずっとずっと書き続けている「人と人を繋げるものはなんなのか」というテーマが最も太くどどーんと表現されていると思った。

*1:今日はこんな感想ばっかりだな…