七夕に

このところずっと雨つづきだったのに、すぐそこまで迫った夏を感じさせる七夕のよき日。雲は多いものの、そのあいまから顔を出す月の光は強い。こんな夜に明日館(みょうにちかん)という素敵な建物で、小谷美紗子さんの歌声を聴くことができたこと、これからさき七夕がくるたびごとに私は思い出すだろう。なんと幸福な楽しみを手に入れたことか!

ゆかわ・森ガール・しおねさん(笑)とのツーマンライブで、ゆかわさんは何度かここでライブをしているらしく、今回は小谷さんにお声がかかったらしい。小谷さんのあとに登場したゆかわさんの格好が、麻生地のロングのサンドレスで、声といい話し方といい、森の妖精って感じでした。歌については…「ジブリ」っぽい、とだけ言っておきましょう。ハウルとか千尋のエンディングで流れていても違和感ない。草原に吹き渡る風のような、さらさらと聴こえる清流のような「上澄み」感。

さて、普段ライブではほとんどしゃべらない小谷さん、今日はいつになく饒舌であった(といっても、いつもの「…」の多い、ひとことひとこと、言葉を探しながらのおしゃべりだけど)。
小谷さんにとって、七夕というのは特別な日で一年で一番強く祈る日だという。

“小さなころから短冊に書く「ねがいごと」は決まっていて、とてもシンプルだけど「家族が仲良く、暮らしていけますように」今朝起きて、パジャマに寝ぐせの状態でピアノを弾きながら軽く歌っただけでも涙があふれてきて、目が腫れてしまった。今日はとてもよい状態で、歌を届けられると思っている。みなさんも何かお願いごとをしてみてください。私の大きな声で、その願いごとを空まで飛ばしてみせるから”

そう笑顔で言ってから、笹の葉さらさら〜と「たなばたさま」を歌い、大切な人のために祈り続ける歌「手紙」で締めくくった。
「手紙」はまだ音源化されてないが、最近のライブでは定番曲。「自分の音楽家としてのプライドをかなぐり捨て、純粋に、まっすぐ人の心に届ける歌を歌おうと思って、できた曲」と以前おっしゃっていた。この曲が本当に素晴らしくて、何度となくライブで聴いているけど、そのたび号泣したくなる(人前だから我慢するけど。でも泣くことは泣く)。
今日も小谷さんの楽曲の多彩さに改めて唸った。やはりこの人の作曲能力は誰にも似ていない、ずば抜けたものがある。曲だけでもすごいのに、言葉のセンスも良くて、誰にでもわかるような、奇をてらわない言葉で人の心に杭を打ち込む、スパッと鮮血が走るような歌詞を書き足元から沈み込んでいる人をすくい上げ、心の糧になるような歌詞を書く。そしてそれを伝える唯一無二の声。脳みそを直に撫でられるような快感と不安感を同時に引き起こす声がまっすぐに私に向かってくる。

よく感動したときに使われる「鳥肌が立つ」というの、(本来「鳥肌が立つ」は不快感、嫌悪感をあらわす言葉だったと思うが)小谷さんの歌はそんなもんじゃない。今日なんか私、歌声を聴いて一気に血圧でも上がったのか、急激に体の中が熱く、血が沸くような感覚があり、しまいには頭がじわんじわん痺れてきた。

私は「きれいなだけ」のものが、やはり苦手なんだと思う。角田さんの小説を好きなのも、小谷さんの音楽を好きなのも理由は同じで、それは人間くさいということだ。善も悪も、正も邪も、美も醜も濁流のようにぐるぐると渦巻いて存在する。流れに巻き込まれて泥だらけになる、きれいなままではいられないことをちゃんと知っている。泥が沈殿し、水が澄みわたるまで見ないふりをすることだってできるけど、彼女たちはそういう選択をしない。混濁のなかを泳ぎながら、ささやかにでも光るものを見つけて私たちに見せてくれようとしている。だから私は読んでも読んでも、また読みたくなり聴いても聴いても、また聴きたくなる。ふわふわと甘いよりも、苦味も酸味も欲しいから。

  1. The Stone
  2. STAY
  3. 火の川
  4. Gnu
  5. 眠りのうた
  6. off you go
  7. 儚い紫陽花
  8. たなばたさま
  9. 手紙